社会的脱糞

軽率に感情的な態度を示すことは愚かな行為だ。

この考えが、気づいた時にはもう自分の中にあった。

 

これは、学校や家庭内で他人を眺めているうちに自然と身についてしまった結論だと思われる。感情的になると誤った決定をしてしまうリスクが高くなる。特に「怒る」というのがよくない。職場で人に怒るということがいかにマイナスな結果を生むのかという話は、メディアや職場研修等で耳にすると思う。

 

私は現在リモートワークで作業をしているが、やりとりをする関係者の中でひとり「すぐキレるので注意」と周知されている人がいる。

その人はメールの文面でも「私は今怒っています!!!!」という感情を丸出しにしてくる。ここまでの人はなかなか見たことがなく、傍から見ていてかなり面食らったのを覚えている。しかも原因がその人の勘違いだったり確認不足だったりするので、返信の文面も気を遣う必要がある。ここで既に余計なコストが生まれている。また、もし他人の知識不足、誤認で発生した問題なら、それを教えてあげればいい。自分と同じ知識がある体で話されても、入社数十年の人間に敵うとは到底思えないからである。

 

怒ることは、その人自身の判断を鈍らせるだけでなく、他者の怒りを誘発し、また他者を委縮させて思考や行動に制限をかけてしまう。怒るより先にまず、なぜ現状がこうなっているのかを考えないと現状が変わらないし、将来的に自分を怒らせる状況を減らすこともできない。感情の発生自体は仕方のないことだが、それを発露する前にやることはいくらでもあるはずだ。

 

ここで最悪なのは、日常的な私の態度が他人から「怒っている」ように見えていることである。

二十数年生きてきて、ただ喋っているだけなのに「怒ってる?」と何度言われたかわからない。それは後から振り返れば「人によれば怒ってもおかしくなさそうな状況」な場合もあるが、「まったく怒るタイミングではない状況」の場合も少なくない。後者では「なんで怒ってるの?」と相手は聞いてくるが、そもそもこちらは怒っていないので「なんで怒ってると思ったの?」という状態になり、ただただ場の空気が不味くなっていくことになる。

 

10代の頃は、「怒ってる?」という言葉を「何カッカしちゃってんの?笑」という意味に変換していたので、

 私「縺翫?繧医≧縺斐*縺?∪縺吶?よ怙霑大?螳峨d縺ー縺上↑縺?▲縺吶°?」

 相手「え、怒ってる?」

 私(は?)←ここで怒り始める

となることが多かった。

 

いや、もしかしたら本当に「何カッカしちゃってんの?笑」という意味だったかもしれない。私の内心がどうであれ、コミュニケーションは相手がどう受け取ったかに依存しているので落ち度はこちらにある。今でこそ「まただよ」と思うだけだが、当時は若く「何を勘違いしてんだテメーは」という気持ちでいた。

過去、学校生活で私と親しくなった数少ない友人がことごとく強引な陽キャ傾向であるのも、私の態度を怒っていると思わない、あるいは怒っていたとしても考慮していなかったからだろう。意識的な笑顔、にこやかな態度を心がけるようにしたこともあったが、それは私にとって別人格を作り出すことに等しく、気づかないうちにかなりの精神的負荷がかかっていたので諦めざるをえなかった。

 

私は「段階を踏まずに初手で怒るのは感情が制御できていない」「基本的に怒っても結果はゼロかマイナスにしかならない」「他人に対して怒りの態度を示していい権利が十分にあってはじめて怒ることを許される」等の偏った思想を持っていて、それに縛られているため相手に怒ることは滅多にない。

ということを相手は知らない。

 

ここ最近、色々なシーンで「怒ってる」判定を受けることがいくつかあって、いささか自分にうんざりしてきた。もし自分が作った不味い空気を1万円でチャラにできるなら喜んで支払いたいと思った。成人してしばらく経っているのに、自分が出したクソの処理もできないとはなんと情けないことだろうか。試しに目の前の仕事用PCに向かって笑いかけてみたが、不気味に引き攣った口角を上げただけの顔が黒い画面に映っただけだった。

 

仕事しろよ

 

 

 

おわり